「特許万能説」の誤解
特許権は国家権力の裏付けを持つ強力な「独占排他権」であるため、特許権者のみが、その特許権の保護対象となった発明を事業に利用することができます(特許法第68条)。この事実に基づいて、「特許さえ取れば会社の事業は安泰だ(競合に市場を侵食されることはない)」と解釈される傾向がありますが、はたしてそれはどこまで本当でしょうか。

例えば、ロボット掃除機「Roomba」で有名な米アイロボット社は、日本で83件もの特許権を取得しており(2017年12月1日現在)、この分野で最多の権利を維持しています。しかし、「ロボット掃除機」の市場を同社が独占できているわけではなく、実際は、シャープ(COCOROBO)、パナソニック(ルーロ)、東芝(トルネオ)など、複数の後発メーカーが競ってロボット掃除機を発売している状況です。

大阪に至る道は1つではない
東京を出発して大阪に到着するための手段を想像した場合、それは1つでないことはすぐ分かります。例えば、東京駅から東海道新幹線に乗る、羽田から大阪国際空港に飛ぶなどのメジャーな手段だけでなく、北陸新幹線から金沢でサンダーバードに乗り換える、横浜で神戸行きの船に乗るなどのマイナーな手段もあり、乗り物・経路の組み合わせを考慮すれば無数の手段が考えられます。

同じように、「ロボット掃除機」を実現するための技術的手段も1つではありません。それを構成する要素技術は多数あり、それぞれに複数の選択肢が存在する場合が多いため、全体として無数の技術的手段が考えられます。アイロボット社は、そのうちの「わずか83の技術的手段」を独占しているに過ぎないため、「ロボット掃除機」という広大な市場全体を抑えることはできていないのです――ということは、特許権を取得することに、そもそも意味はないのでしょうか。

特許権は市場参入・維持のための切符
答え(特許を取得する意味)は、万能/無意味の間にあります。

例えば、新幹線を使うにしても、飛行機を使うにしても、「まず東京駅の構内に入る」というアクションを回避することは困難です。同じように、ある製品を実現する技術的手段に高い自由度があるとはいえ、「使用を回避できない単一の要素技術」は存在します。ロボット掃除機の場合、ロボットが掃除を終えてホームベースに戻る際に「本体とホームベースとをうまくドッキングさせる」ための技術は他に代替の要素技術が乏しく、この技術に関してアイロボット社は強力な特許を保有しています(特許第4472709号、第4480730号)。そのため、競合他社は、こうした権利(=必須特許)を踏まざるを得ないのです。

逆に、有力な他社も同様にこうした権利を保有しているため、「踏みつ踏まれつ」の依存関係が生じていると考えられます。この依存関係が成立する有力プレーヤーとは仲良く市場をシェアするほかなく、原理的に独占は不可能です(特許の限界)。一方で、有力プレーヤーは、必須特許を保有していない泡沫プレーヤーとシェアする理由はないため、独占排他権の効力で泡沫プレーヤーを市場から締め出すでしょう(締め出しのコストがそれによる利益増を超過する場合を除く)。

右のグラフは、パテントリザルトによる分析結果を引用したものです。赤い円の内側にいるプレーヤーは、必須特許を保有する有力プレーヤーと考えられ、青い円の内側にいるプレーヤーは、保有しない泡沫プレーヤーと考えられます。後者は必ず市場からたたき出され、「大阪に到着する」ことすらできないのです。

言い換えれば、特許は市場に参入してそのポジションを維持するために必要となり得るツールの1つであり、その位置づけによって、その意味は万能/無意味の間で変化します。願わくは「東海道新幹線」というドル箱を抑え、少なくとも「東京駅の構内に入る」ための小さな切符を得るために、周到な出願戦略・知財体制が必要です。

「特許権を有効に取得したい」と考えながら、次のような課題を抱えている企業は、ぜひ一度ご相談ください。
・知財を管理・活用する体制を強化する必要があるが、何から着手すればよいかわからない
・「とりあえず出願」しているだけの状況を、長期スパンで改善したい
・研究開発の成果が、特許として見える化・資産化できていない
・研究者と同じ目線で技術的議論を深め、出願の質を高められる代理人が必要だ